考察・歪みの国のアリス『どこからが現実か?』




という訳で、何となく考察してみます。

※ネタバレ注意※





亜莉子の歩いた世界は、何処からが現実で何処からが不思議の国か。



まず、第一章。
舞台は学校です。四階の自習室で亜莉子は目覚めますが、校内には誰もいません。亜莉子の記憶としては、直前まで雪乃と一緒に勉強をしていたらしいです。

この時点では、学校ごと“不思議の国”だと思われます。学校の廊下は常識では考えられないほど長く伸びて、階段のある場所には壁が立ちはだかり、壁には小さな扉がひとつあるだけ。
普段通いなれている学校という場所ですが、明らかに異常な事態が建物という外因的要素によって起こっています。よって、この学校は亜莉子の中にあった“不思議の国”が成長した形であると考えられます。
それは同時に第二章のホテル・ブランリエーヴルにも言えます。

これは私の勝手な予想なのですが、幼いアリスが“不思議の国”を否定して、“不思議の国”の扉は閉じられたと猫は言っていましたが、それでも“不思議の国”が亜莉子の中にずっと存在していたと考えられます。つまり、一種の異次元みたいなものが亜莉子の中に出来ていた、という感じで。そしてその異次元である“不思議の国”は、扉が閉ざされた後も亜莉子の経験する物事によって影響を受けていた、と考えられます。

それは、ハリーと親方が仕立て屋を営んでいる場所が『高校の被服室』であり、帽子屋とネムリネズミがお茶会を開いている場所が『引っ越した後の家の近所にある公園』であり、公爵や夫人、カエルやパン族のいる場所が『引っ越した後の家に近い繁華街のホテル』である事から、つまりは“不思議の国”は亜莉子の経験・記憶に基づいて再構築される世界である、と予想が出来るからです。
亜莉子が“不思議の国”を閉じたのは、引っ越す直前かその直後である事を見ると、もし扉を閉じた後から“不思議の国”と亜莉子が完全に切り離されたものであるならば、“不思議の国”の住人は幼い“アリス”の周囲の世界観のままだったはずですから。

つまり、扉が閉じる前は、仕立て屋は幼稚園や近所の服飾店、お茶会は祖母の家の近くの公園、カエル達やパン族がいる場所はやはり祖母の家の近所パン店やレストランであったと考えられもします。
扉は閉じましたが、亜莉子と“不思議の国”の住人は繋がっていた。亜莉子の経験や成長と共に、“不思議の国”の世界や住人が住む場所もまた変化する、そんな感じだと予想されます。


■猫や仕立て屋師弟が現れた高校→不思議の国(現実ではなく、その模倣世界)■
■ホテル・ブランリエーヴルやその途中の無人の街→不思議の国(現実ではなく、その模倣世界)■






次に第三章。
ホテル・ブランリエーヴルの硬いドアから抜けた路地裏。ここから、亜莉子は急に現実世界に戻されたと考えられます。
その理由は、下の三つから。
・和田さんの登場
・通行人の存在
・雪乃の存在
特に和田さんは現実世界の象徴みたいな人物なので、和田さんと関わる場合は亜莉子は現実世界にいると考えられます。
もしかしたら、第二章の最後で猫と離れたのが原因かもしれませんが、猫=不思議の国の象徴、和田さん=現実世界の象徴、なのかも。
更に和田さんから逃げた後、雪乃と出会いファーストフードに行くエピソードがありますが、この時点で、雪乃も現実世界の者である、という叙述的な要素を持っていますね。雪乃=シロウサギは“不思議の国”から抜け出した存在なので、現実世界と不思議の国、両方に存在し、また両方に存在しない、そういうものなのかもしれません。

ここからまた亜莉子は雪乃と別れて廃ビルに向かいますが、この廃ビルも“不思議の国”ではなく現実世界のビルであると考えられます。その根拠は、『真実の番人』であるビルがそこにいたこと、そこに和田さんが来たこと。
どうやら番人であるビルと、導く者である猫と、抜け出した存在であるシロウサギ、それに不思議の国で権力者である女王様は、不思議の国から離れた現実世界でも存在が可能なようです。
火にまかれたビルに再び現れた猫に連れられて、亜莉子はお茶会に向かいます。
そしてこの時点でまた、亜莉子は“不思議の国”に迷い込んだと考えられます。


■繁華街と廃ビル→現実世界■
■お茶会が開かれている公園→不思議の国(現実ではなく、その模倣世界)■






公園から血の海、そして女王様の城。この一連はずっと“不思議の国”になります。
そしてまた公園に戻って、バラ園の無限迷宮に、そして迷宮を抜けて亜莉子の家に。
この亜莉子の家の時点でも、まだ“不思議の国”であると思います。この『家』の中は、亜莉子にあの夜の事を思い出させる、ひとつのダークスポットみたいな扱いなのかもしれません。
更にそこから出た交番もまだ“不思議の国”の中です。そこから向かった裁判所や赤と黒の迷宮も。
そして赤と黒の迷宮を抜けた後、亜莉子は完全な現実世界に戻ってきます。


■血の海、女王様の城、→不思議の国■
■亜莉子の家、交番→不思議の国(現実ではなく、その模倣世界)■
■裁判所、赤と黒の迷宮→不思議の国■






病院の中ではずっと現実世界ですが、ここでシロウサギが現れた時、“不思議の国”でも現実世界でもない、第三の世界に入ったと私は考えます。シロウサギ以外の住人は現れず、現実世界の人々もいないので。強いて言うならば、この世界こそが“歪みの国”なのかもしれません。
しかしTrue end以外のルート、例えば『ご褒美』の場合、EDには『真由子』という現実世界の看護婦が登場します。この場合、亜莉子という『世界の主』を殺してしまい、“不思議の国”も“歪みの国”も消えうせて、そこに“不思議の国”から抜け出したシロウサギだけが現実世界に残されたのではないでしょうか。
『ヒトガタ』の場合は猫もいるので、ここでもやはり“不思議の国”から抜けることの出来る人物……猫、シロウサギ、そしてビルと女王様も残されているのかもしれません。
実際、女王様は『黒こげの天使』エンドでは猫とアリスが死んだ後にも関らず、死した“アリス”を連れており「私も行かなくては」という台詞を言っています。要するに、残されてはいるけれど、己の生命の自由を得てはいるようです。


■病院→現実世界■
■シロウサギが現れた後の病院→歪みの国(亜莉子とシロウサギの歪みの象徴)■






True end後の世界は、一つのエンドでは『その後、不思議の国の住人を見ることはなかった』とあります。が、別のエンドでは猫が現れたり、女王様からのメッセージを受け取ったりしています。
そこでまた予想なのですが、“不思議の国”は扉を再び閉ざされたわけではなく、亜莉子の中の世界として、融合をしたのではないでしょうか。だから、猫が出てこないエンドでも、“不思議の国”は亜莉子の中にずっと存在し続けているのかもしれません。






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長々と語って参りましたが、以上が私の考える物語内の世界考察です。
勿論これは私が勝手に考えた世界ですので、他にも色々考えられる可能性は大いにあります。
こんなふうに考察してみるのも、たまには楽しいんじゃないでしょうか〜。
どっとはらい!








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